世界を動かすような偉業を成し遂げたい!
そんな夢を描いたことはないでしょうか?
「世界を動かす」といっても方法は多々あり、
新しい技術を発明する、多くの人の心に響く音楽を作る、後世に残る哲学を生み出す・・・など、実際に世界を動かしてきた偉人のおかげで、今の人類の発展はあります。
世界を動かした偉人がいる一方で、私を含む多くの普通の人は、エジソンのような頭脳も、ベートーヴェンのような感性もなく、キリストのように奇跡を起こすこともできません。
では、優れた頭脳や感性を持たず、奇跡も使えない普通の人に世界を動かすことはできないのでしょうか?
答えは「ノー」です。
人類が互いに協力するために磨き上げてきた、誰でもできるコミュニケーションの一つ「演説」によっても世界は動かされてきたのです。
一つの演説が国を救い、人々の差別をなくし、声なき声を届け、私たちに希望を与えて世界を動かしてきたのです。
そんな世界を変えた演説について取り扱った本をご紹介します。
こんにちは。ドムドムです。
読書と本の収集が趣味の、本が大好きな私が、
「面白い!」
「悩みや疑問と向き合えた!」
「新たな知識の扉が開いた!」
と感動したおすすめの本を紹介します。
本の概要
・タイトル:世界を動かした名演説
・著者:池上 彰、パトリック・ハーラン
・ページ数:281ページ
著者は解説者としてテレビで見ない日はない池上彰さんと、これまたテレビで度々見かける”パックン”ことパトリック・ハーランさん。
本書は池上さんとパックンの対談形式で書かれています。
世界情勢を熟知された池上さんによる”当時の状況分析”と、コミュニケーション学について東京工業大学で教鞭を執られているパックンによる”演説のテクニック”の説明が分かりやすく、まるで演説が行われたその場にいるような興奮を味わえます。
演説を学ぶ意味
ここまで本記事を見られてきた人の中には、「自分は世界を動かしたいとは思わないし、大勢の前で演説することもないから、演説は知らなくてもいい」と思われる方もいるかもしれません。
確かに、記者にカメラを向けられ、大勢の前で演説する機会がある人は極めて少ないでしょう。しかし、演説を学ぶメリットは他にもあるのです。
コミュニケーションツールとしての演説
演説を学ぶメリットの一つ目は、「演説は実用性が高い」ということです。
皆さん経験があると思いますが、会社や学校生活において「自己主張をする機会」はほぼ毎日おとずれます。大勢の前でなくとも、会議の場やホームルーム、家族で旅行先を決める時など「自己主張をする機会」は毎日のように存在します。
演説は、いかに聴衆に聞いてもらえるか、そのあとに行動に移してもらえるかが重要です。なぜなら演説の第一目的は、相手を動かすこと。
実際に名演説とされるものには、聞く人を感動させ行動に移させる様々なテクニックが詰まっているのです。
演説を学ぶことは、実生活に置いて自分の意見を伝え、相手に行動を促すことに繋がるのです。

歴史の転換期に演説アリ
演説を学ぶもう一つのメリットは、「演説を学ぶことで人類史や社会問題、政治運動といった歴史全体の流れが見えること」です。

演説の内容の多くは、歴史的な瞬間を切り抜いたスナップショットであり、演説を行った人物や背景を知ることで、時代の転換点のみならず歴史全体の流れが見えてくるのです。
歴史が覚えにくい、歴史に興味が無い人も演説を知ることで、別の角度から歴史を見ることができるのではないでしょうか。
本書で紹介されている演説
本書では、アメリカ・アフリカ・アジア・ヨーロッパそして日本で発信された「世界を動かした演説」が15個紹介されています。
演説をした時代や背景はバラバラで、
- ナチスドイツの脅威におびえるイギリスで
- アメリカで黒人に公民権を
- コロナ渦の国民に向けて など
国を守り、差別に目を向けさせ、国民を守るために発信され、世界を動かした演説です。
本章で紹介されている演説について、演説を行った人物・時代と、演説を象徴する言葉を一緒に紹介します。
抗戦と平和
■ウィンストン・チャーチル(イギリス第61・63代首相)
「我々は戦う。岸辺で、上陸地点で、野原で、街路で、丘で。我々は決して降伏しない」
-1940年6月4日
■ウォロディミル・ゼレンスキー(ウクライナの現職大統領)
「ウクライナに栄光あれ」
-2022年3月8日
■ジョン・F・ケネディ(アメリカ第35代大統領)
「Ich bin Berliner(私はベルリン市民です)」
-1963年6月26日
■ロナルド・レーガン(アメリカ第40代大統領)
「この壁を壊してください」
-1987年6月12日
■リヒャルト・フォン・ヴァイツゼッカー(ドイツ連邦第6代大統領)
「過去に目を閉ざす者は現在にも目をつぶることになる」
-1985年5月8日
■ジャワハルラール・ネルー(インド初代首相)
「世界で何が起ころうとも、どちらにも属さない」
-1955年4月18日
■鄧小平(中国共産党の指導者)
「今、3つの世界がある」
-1974年4月10日
■昭和天皇(日本第124代天皇)
「堪え難きを堪え、忍び難きを忍び」
-1945年8月15日
■安倍晋三(日本第90・96・97・98代総理大臣)
「希望の同盟へ」
-2015年4月29日
迫害と希望
■マーチン・ルーサー・キング(アフリカ系アメリカ人公民権運動の指導者)
「I have a dream(私には夢がある)」
-1963年8月28日
■マルコムX(アフリカ系アメリカ人の黒人解放運動の指導者)
「The ballot or the bullet(投票か弾丸か)」
-1964年4月12日
■ネルソン・マンデラ(南アフリカ第8代大統領)
「死ぬ覚悟はできている」
-1964年4月20日
課題に立ち向かう
■マララ・ユスフザイ(パキスタンの人権運動家)
「一人の子ども、一人の先生、一本のペンそして一冊の本が世界を変える」
-2013年7月12日
■ジャシンダ・アーダーン(ニュージーランド第40代首相)
「私たちが信じている国になるために」
-2019年3月29日
■アンゲラ・メルケル(ドイツ連邦第8代首相)
「親愛なる市民の皆様へ」
-2020年3月18日
紹介したのは短い象徴的な言葉だけですが、どれも印象に残る言葉ではないでしょうか。
興味を持たれた方は、是非ネットで検索してみてください。
半世紀以上たった今でも、色あせることなく私たちに示唆を与えてくれます。
2回世界を救った演説
ここまで演説を学ぶ目的、本書で取り上げられている演説を紹介しました。
ここからは、本書で取り上げられている「2回世界を救った」ある演説を紹介します。
ナチスドイツから世界を救った演説「我々は決して降伏しない」
この写真の人物こそ、世界を2度救うことになる演説をした男です。
ユーサフ・カーシュ - Flickr: Sir Winston Churchill, パブリック・ドメイン, リンクによる
名前は「ウィンストン・チャーチル」。イギリス第61・63代首相で、教科書にも登場する、知らない人はいない有名人です。
時は1939年9月1日。
ヒトラー率いるナチスドイツがポーランドに侵攻し、第二次世界大戦が勃発しました。
当時のイギリスの首相はチェンバレン。約20年前に発生した、第一次世界大戦での悲惨な経験がまだ消えていない当時、チェンバレン首相はドイツとは積極的に戦わずに、講和に持ち込む融和策を取っていました。
イギリス・フランスの弱腰の姿勢と圧倒的なドイツ軍の前に、僅か1ヵ月でポーランドは降伏。その後は、フランス国境でドイツ軍とフランス・イギリス連合軍がにらみあう状況が半年続きます。
そして1940年5月10日。突如として戦車を主体とするドイツ軍が、一斉にフランスに襲い掛かりました。フランス国境の防衛線はあっという間に突破され、首都パリにドイツ軍が迫ります。
ヨーロッパ大陸から海で切り離されたイギリスでは、チェンバレン首相の融和策に対して非難が殺到。チェンバレン首相は退陣し、海軍大臣だったチャーチルが首相に就任します。
チャーチルは講和策を捨て、フランスと協力してドイツへの徹底抗戦を叫びますが、ドイツの戦車部隊によってフランス軍、フランスで頑張っていたイギリス陸軍は徐々にカレー沿岸に追い込まれます。
フランスにいるイギリス陸軍が全滅すれば、イギリス本国へドイツ軍が侵攻することを防ぐことはできません。
チャーチルは民間船を含むありとあらゆる船を徴用し、イギリス本土への撤退作戦「ダイナモ作戦」を発動。民間人の助け、イギリス空軍の奮戦があり、33万ものイギリス・フランス兵がイギリスへ無事に撤退することができました。
無事に撤退できたとはいえ、戦車や大砲といった兵器は放棄し戦う武器がありません。さらにフランスの降伏が目前に迫った連合軍が大ピンチの時に、チャーチルはイギリス議会で演説を行いました。
「我々は戦う。岸辺で、上陸地点で、野原で、街路で、丘で。我々は決して降伏しない」
演説全体はもっと長いですが、この演説でチャーチルは
「敵は強大で、国民の中には死ぬものもでるかもしれない。降伏することもできるが、そうはせずどんな犠牲を払っても戦うんだ」
と徹底抗戦を国民に訴えます。
この演説はラジオを通して繰り返し流れ、結果としてイギリス国民が奮い立ち、バトル・オブ・ブリテンと言われるドイツ軍との航空戦に勝利します。
チャーチルの演説が反撃の狼煙となり、連合軍が優勢に立って勝利を収めるのです。
チャーチルの演説には、誰でも応用可能なテクニックが使われています。
それは、首句反復(anaphora)という同じ言葉を繰り返すテクニックです。
演説では「we shall fight on the beaches,we shall fight on the landing grounds,......」と、we shallが11回も使われています。日本語訳でも岸辺で、上陸地点で野原で....と繰り返し韻を踏むことで、聞いていて気持ちが高りますよね?
名演説とされるものには、この繰り返すテクニックが多く使われています。
この演説に興味を持った人におすすめする映画があります。
2018年3月に公開された「ウィンストン・チャーチル」です。
当時のイギリスが置かれた絶望的状況がリアルに表現され、終盤にチャーチルが演説する場面ではあついものがこみ上げてきます。
ウクライナを救った演説「ウクライナに栄光あれ」
第二次世界大戦が連合軍の勝利に終わってから約80年後の2022年2月24日。
プーチン率いるロシア軍が突如としてウクライナに侵攻しました。
ロシアとウクライナの兵力差は歴然。
誰の目にもウクライナがすぐに降伏するものと思われました。
しかし、ウクライナのゼレンスキー大統領は徹底抗戦を主張。ウクライナの首都キエフに迫ったロシア軍に対し必死の防衛を行い、撃退したのです。
President Of Ukraine from Україна - The world must officially recognize that Russia has become a terrorist state - address by the President of Ukraine., パブリック・ドメイン, リンクによる
ゼレンスキー大統領
ロシア軍によるウクライナ侵攻の13日後の2022年3月8日。
ゼレンスキー大統領は、援助を求めるためにイギリス議会にてオンラインで演説しました。
演説ではロシア侵攻からの13日間なにがあったのか、1日ずつリアルな表現が使われ聞いていて引き込まれます。ロシアがいきなり侵攻してきて、眠ることもできずに子供も犠牲になっていると。
そして演説の中盤、イギリス人なら間違いなく感動する言葉を使います。
英国がすでに耳にしたことのある言葉を思い出してください。私たちはあきらめないし、負けません。
私たちは最後まで戦い抜く。海でも戦い、空でも戦う。いかなる犠牲を払おうとも、私たちの領土のために戦い続ける。私たちは戦う。森で、野原で、海岸で、街路で。加えてカリミウス川やドニプロ川などの川岸でも戦いつづけます。
この後、「ウクライナに栄光あれ。英国に栄光あれ」で演説が終わります。
中盤で使われた言葉。どこかで聞いたことがありませんか?
そうです。チャーチルの演説に登場した「我々は戦う。岸辺で、上陸地点で.....」です。
イギリス人なら誰しも知っている、チャーチルの演説をオマージュしているのです。
イギリス議会の中には涙を流している議員もおり、演説が相手の心を動かしたことは確かです。
ゼレンスキー大統領は演説をするにあたり、どうすれば相手の感情に訴えられるかを研究したそうです。
例えば、演説を行う場所と服装。
防空壕の中のような殺風景な部屋に国旗のみを飾り、Tシャツ姿で登場することで、戦場に命を張って残っている切迫感を与え、聴衆の感情を揺さぶっています。
また、演説はウクライナ語で行われ、英訳は同時通訳によるものです。
通訳者がその場で訳すしかなく、表示される字幕も上手とは言えなかったそうです。
しかし、そのつたなさがかえってリアルさを導き出していたのです。
演説では、エトス・ロゴス・パトスの3つが重要とされ、エトスはその人自身の信頼性。ロゴスは論理的なアピール、研ぎ澄まされた言葉。パトスが聞いている人の感情です。
ゼレンスキー大統領は、パトス(聞いている人の感情)をうまく操り、相手の行動を促したのです。
ゼレンスキー大統領は2022年12月21には、アメリカ連邦議会を訪れ対ロシアで協力を仰ぐ演説をしています。
ここでもアメリカ人ならだれでも知っている、「真珠湾攻撃」「サラトガの戦い」に触れて相手の感情に訴えかけるテクニックを使っています。
第二次世界大戦でイギリス国民を奮い立たせたチャーチルの演説が、遠いウクライナでも祖国を守るゼレンスキー大統領によって使われ、ウクライナを救ったのです。
最後に
演説の持つ魅力、学ぶ目的について紹介してきました。
今回はチャーチルの演説を取り上げましたが、本書には他にも魅力的な演説が登場します。
中でも私のお気に入りは「史上最強の謝罪演説」と紹介されているドイツのヴァイツゼッカー大統領の演説です。本書を見るまで聞いたことが無かった演説ですが、心に響きました。
「過去に目を閉ざす者は現在にも目をつぶることになる」
ドイツと同じ第二次世界大戦で敗戦した日本。改めてあの戦争とは何かを考えさせられます。
本書で取り上げられている演説は近代・現代と、ここ100年以内の新しいものです。世界を動かした演説は、リンカーンのゲティスバーグでの演説、エリザベス1世のティルベリーでの演説など他にもたくさんあります。
本書をきっかけに、あなたを動かす演説に出会えることを願っています。

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