皆さんは本を読まれる際に気を付けていることはありますか?
私は気になった文章に青色のボールペンで線を引き、感じたことを書き込みます。特に思い出に残ったページは、ドッグイヤー(折り目)を付けています。
読み終えた本は、たくさんの線や書き込み、折り目でいっぱいになります。
しかし、一本の線も一つの折り目もなく、読み終えた本があります。
にもかかわらず、読み終えたあと、心に深く残っている本でもあるのです。
その本の題名は『笛吹川』。
読み終えたあとに初めて、本の魅力に気付かされた一冊です。
こんにちは。ドムドムです。
読書と本の収集が趣味の、本が大好きな私が、
「面白い!」
「悩みや疑問と向き合えた!」
「新たな知識の扉が開いた!」
と感動したおすすめの本を紹介します。
本の概要
- タイトル:笛吹川
- 著者:深沢 七郎
- ページ数:251ページ
『笛吹川』は、戦国時代が舞台の大河小説で、武田家が治める甲斐の国(現在の山梨県)の農民一家六代を描く物語です。
戦国時代という、戦や洪水が日常だった時代。
子供が生まれ、人が死に、また子供が生まれる。
六代にわたる農民一家の人生も例外なく、歴史の大きな流れの中で淡々と過ぎていきます。
本書を読んで
最初は読みにくかった
本書では、登場人物が「甲州弁」と言われる方言を使って会話、思いを述べています。
最初は「ずら」や「ごいす」といった普段聞きなれない甲州弁に違和感があり、読みづらく感じましたが、物語が進み話に吸い込まれるようになると、違和感は消え気にならなくなりました。
黒澤明監督の映画「七人の侍」を見た時も本書と同じ感覚だったのを覚えています。
最初は言葉が難しく聞き取りづらいのと、白黒画面であり、何度も巻き戻して内容を理解しようとしましたが、途中からは白黒であることを忘れ、まるでカラー映画を見ているように没入しました。
読んでいる時は不思議なほど、感情が動かなかった
本書は子供の誕生といった”生”、そして洪水や戦といった”死”が頻繁に出てきます。
また、武田家をめぐる盛衰といった出来事が多いのですが、不思議なほど「悲しい」「苦しい」「感動した」といった感情が私の中には生まれませんでした。
読み終わった後の本には一本の線も、一つの書き込みも、一つの折り目もありませんでした。
本書の情景は、今でも鮮明に覚えています。
だからこそ、不思議でした。
これほど覚えているのに、一つも折り目がなかったのです。
そして読み終えたあと、心に残ったのは「感動」ではありません。
「悲しい」「苦しい」でもありません。
何も心に残らなかったわけでもありません。
”何とも言えない虚しい感覚”だけが残りました。
「虚しい」という言葉で合っているのか、今でも分かりません。
それでも、他にこの感覚の言葉が見つからないのです。
この感覚の名前が見つかったのは、物語を読み終わり、解説を読んだ時でした。
解説を読んで”虚しい”に触れる
読み終えた後、確かに心に残っていた”何とも言えない虚しい感覚”。
それが何なのかしばらく分かりませんでした。
しかし、解説の表題を見た瞬間
「これだ」
と心の中で思いました。
どうにもならない
読み終えた後に抱いていた、言葉にならない感覚を、この一言が言い表してくれたのです。
「どうにもならない」とは
『笛吹川』の主人公である農民は、どうにもならない運命の中、人生を生きています。
この物語は、
正しいことをして救われる世界ではありません。
努力をすれば報われる世界でもありません。
武田家の都合で生死が決まり、洪水が起これば家は流され、人も死ぬ。
それでも人は生まれ、そしてまた運命の中で死んでいく。
主人公と呼べる人物など存在せず、生まれては死んで次々と世代が変わっていく。
六代にわたる物語なのに、どこから始まり、どこで終わりなのかもわからない。
まるで、人生そのものが循環しているかのような物語。
『笛吹川』はとても一言では言い表せない「どうにもならない」物語だったからこそ、読み終わった後に、何とも言えない”虚しい”感覚を持ったのだと思いました。
『笛吹川』の魅力
読み終えた後、私の本棚に残された本には一つの折り目もありませんでした。
それでも今なお、この本だけは何度も思い出します。
『笛吹川』は「面白かった」と単純には言えない作品です。
読んでいる最中は感情が動かず、読み終えた後に初めて、心に何かが残っていることに気付きました。
それが「虚しさ」という言葉で合っているのか、今でも分かりません。
それでも私は、この作品ほど「どうにもならない」という人間の営みを、これほど深く描いた物語を他に知りません。
私にとって『笛吹川』は、まさにそんな一冊でした。

